皆様、急に暑くなって参りました。夏休みも近づき、生活リズムも変わりがちで、体調管理も難しい時期となりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか?
こんにちは、理事長の小室暁です。
先日、私が副施設長を拝命しております、大阪口腔インプラント会主催100時間コースでは、九州大学の鮎川保則教授がご講義をして下さいました。内容は、”学会発表の準備と手順、演題申し込みから論文投稿まで”でした。
私たちのような臨床医が学会で発表を行う事は、ハードルが高いと感じる先生方もおられます。そのハードルを少しでも下げるために、学会発表についての基本的な規則、考え方などを丁寧にご教示いただきました。
当院でも、来たる11月の日本口腔インプラント学会学術大会京都大会では、3名の勤務医の先生が学会発表予定です。また、他の学会にも多くの先生や衛生士技工士が参加してくださります。この講義を院内でもフィードバックして、学術活動と患者さんの治療を両立させ、互いにフィードバックできるようにしていきたいと思っています。
さて、鮎川先生とご講演の前、色々とお話しする機会がございました。登壇前1週間は、非常に忙しかったとのこと。
なぜなら、先生の発表が世間一般で非常に話題となり、各種テレビ局や雑誌などに引っ張りだこであったから、と言うことです。
その内容とは、
奥歯のかみ合わせの維持が認知症予防につながる
ということです。
鮎川先生のグループは、複数自治体が参加した健康関連データベースから、17年度~19年度のレセプト(診療報酬明細書)を分析されました。65歳以上の約2万2000人について、奥歯のかみ合わせがそろった箇所の数と、アルツハイマー型認知症の診断時期の関連性を検討されました。
その結果、奥歯のかみ合わせが全てそろっている人に比べ、歯の欠損でかみ合わせが一部失われた人は、認知症の症状が1.34倍表れやすく、前歯も含めてかみ合わせが全くない人だと1.54倍高いという結果が出ました。
鮎川教授は歯の喪失により認知症になる理由について
- 脳血流野減少
- 栄養状態の低下
- 会話困難や自信喪失による社会活動の低下
と述べられています。
実際、これに似たラットを使った実験もあります。生まれた時から固いものばかりを食べて育ったラット、柔らかいものばかり食べて育ったラット。二つの集団に迷路の正しい抜け道を覚えさせる実験をすると、固いものを食べて育ったラットは明らかに覚えが良いという報告があります。
噛むことによって、歯や、筋肉や、顎の関節などから、様々な刺激が脳に伝わり、脳の発達を刺激するからと推測されています。
以上のような研究から、欠損(歯がない状態)を放置しておく事は、良くないことだとわかりますね。
歯がない状態を放置しておくのではなく、ブリッジや入れ歯、そしてインプラントなど、何らかの方法で噛める状態を取り戻されることを強くお勧めします。
早速先週、当院に70代の患者様が初診でお見えになりました。上下共、ほとんど歯がない状態だったのですが、なんと長い間そのままでお食事をされていたとのこと。鮎川先生の報道を見て、やはりよく噛める状態になりたいと言うことで、ご相談に来られました。このような場合、まずは仮の入れ歯を作成して、本来の噛み合わせの感覚を取り戻していただくことが多いです。
長い間、歯のない状態でいると、ご自身でも”噛む”感覚を忘れておられておられるからです。その後最終の治療のご相談に移りたいと思っています。入れ歯にせよ、インプラントにせよ、補綴物は”人工臓器”ととらえておりますから、時間をかけて、体になじませていただくことが重要なのです。
”噛める”ことで、患者さんの健康長寿に、少しでもお役に立てれば嬉しいですし、改めて報道の力の凄さを感じました。