
こんにちは。理事長の小室暁です。
新年度も早くも2週間が過ぎ、桜も大阪ではすっかり散ってしまいました。
当院も、新しい仲間も迎え、慌ただしく過ごしておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
本日は、大阪中之島センターで開催された2つの勉強会に参加し、「矯正歯科」について深く学ぶ機会を得ました。大阪大学歯学部卒業生にとってはなじみ深いこの場所で、午前と午後に渡って、まさに“矯正尽くし”の一日となりました。
小児矯正は本当に必要なのか?
午前中は「大阪大学矯正臨床研究会」に参加し、小児の矯正治療についての講演を拝聴しました。
講師は、いつも当院で協力医としてお世話になっている谷川千尋先生でした。
この分野においては、「子どもの頃から矯正治療を始めることに、本当に意味があるのか?」という疑問がしばしば投げかけられます。現段階では、“小児から矯正を開始することで明確に治療結果が良くなる”という決定的なエビデンスはまだ十分ではありません。
しかしながら、以下のような小児矯正のメリットも多く存在します。
- あごの成長発育を利用しながら治療できる
- 永久歯へのスムーズな交換を誘導できる
- 将来的な抜歯や手術の可能性を減らすことができる場合がある
- コンプレックスの軽減など、心理的な利点も大きい
- 歯並び不正に伴うう蝕や歯周病を防ぐことができる
実際に臨床現場でも、患者さんごとに事情はさまざま。成長発育を見ながら早期に治療の方向性を見定めることで、その子にとって最適なタイミングで最適な処置を行うことができます。
「いつから矯正を始めたらいいの?」という疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
外科的矯正治療とデジタル技術の進化
午後からは「日本臨床口腔外科医会」の勉強会へ。矯正と外科が連携する”外科的矯正治療(顎変形症に対する骨切り手術など)”について学びました。
矯正医として有名な臨床医である井上裕子先生、そして広島大学の相川友直教授にご講演いただきました。
井上裕子先生には、口腔外科と施設矯正についての関係性を学びました。豊富な臨床例から多くのことを学べました。
相川教授には、私たち一般の開業医がなかなか日常で見ることのない矯正歯科における骨切り手術について、丁寧に解説していただきました。
特に興味深かったのは、デジタルシミュレーション技術の導入です。
術前のシミュレーションソフトであごの移動量やバランスを事前に検討し、その結果をもとにサージカルテンプレート(手術用ガイド)を作成して、より正確な手術が可能になります。
これは、補綴治療や矯正治療におけるデジタルワークフローと同じ考え方です。
再現性と精度を追求する上で、デジタル技術は口腔外科でも欠かせない時代になっていると改めて実感しました。
外科矯正について
外科矯正とは、上下顎が極端に前へ出ている、あるいは後ろに下がっている場合に、外科的に骨の位置関係を整える方法です。その時、多くの場合、骨切り術を行います。
上下顎の骨切り術(Orthognathic Surgery)は、顎変形症や咬合不全の治療に用いられる外科的手法で、矯正治療と連携して行われます。今回、代表的な上顎・下顎に対する主要な骨切り術式と、その利点、欠点について具体的にご教授いただきました。
上顎に対する骨切り術
- Le Fort I型骨切り術(ルフォー I 型)
最も一般的な上顎骨切り術。
上顎骨全体を水平に切り、前後・上下・回転など多方向に移動可能。
開咬、過蓋咬合、上顎前突・後退症例などに用いられる。 - Le Fort II型・III型骨切り術
眼窩底・鼻骨などの高位にまで切り込みを入れる。
顔面中部低形成など、先天異常や外傷など特殊症例に対して適用される。 - 前歯部歯槽骨骨切り術(Wassmund/Wundere/Bell)
- 臼歯部歯槽骨骨切り術
- 骨延長術(LF1, LF2. LF3, MASDO)•SARPE
下顎に対する骨切り術
- 下顎枝矢状分割術(Sagittal Split Ramus Osteotomy:SSRO)
最も広く用いられる下顎骨切り術。
下顎枝を矢状方向に切り、下顎体部を前後に移動。
下顎前突症(受け口)、下顎後退症(出っ歯)どちらにも対応可能。
安定性が高く、術後の顎間固定期間が比較的短い。 - 垂直下顎枝骨切り術(Vertical Ramus Osteotomy:VRO)
下顎枝を垂直方向に骨切りし、主に後退術に使用。
SSROと比べて簡便で神経損傷のリスクが少ないが、後戻りしやすく、顎間固定が長い。 - 下顎前方骨切り術(Anterior Mandibular Osteotomy)(kole法)
下顎前歯部の骨切り術で、前歯の位置を前後に調整する。
限局的な前突や後退、審美目的に適用される。 - 臼歯部歯槽骨骨切り術
- 骨延長術(下類枝•下領正中•歯槽骨)
- オトガイ形成術
顎先(オトガイ部)の形態修正術。
顎先の前後・上下移動や非対称の調整、審美的改善に用いられる。
上記の術式と併用されることも多い。
上下顎に対する複合手術
- 上下顎同時移動術(Double Jaw Surgery)
Le Fort I型骨切り術+SSROなどを組み合わせ、上顎・下顎を同時に移動。
顎顔面の調和と咬合を同時に整える。
外科矯正の中でも最も多用され、顔貌改善効果も高い。
私は補綴(被せ物や入れ歯を専門とする)を中心に日々診療をしていますが、本日は“矯正”という異なる分野を一日かけて深く学びました。
子どもの矯正から、外科的処置を伴う矯正まで——その幅広さと奥深さに触れ、非常に有意義な時間を過ごせました。
矯正は決して“歯並びを整えるだけ”ではありません。
成長発育、心理的サポート、咬み合わせ、そして顔貌の調和にまで関わる、まさに“全身と人生に関わる治療”です。
今後も患者さんのために、こうした学びを日々の診療に生かしていきたいと思います。
当院は、当院は厚生労働省指定の指定自立支援医療機関です。
このブログに記載したような、手術を伴うような大きな矯正治療は、保険治療を適応することができる場合があります。
お気軽にご相談ください。
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