
こんにちは、理事長の小室暁です。
当院では、毎週、ドクターの勉強会を行っておりますが、先日私がプレゼンさせていただいた内容をご紹介したいと思います。
少し盛りだくさんで、専門的な内容ですが、どうぞご一読いただけましたら嬉しいです。
当院は、マイナス1歳から、最後のワンスプーンまで口を通して患者に寄り添う、と言うミッションを掲げています。
しかし当然、1人の患者さんの一生を1人のドクターで見ることはできません。
ですので、当院では、法人内で担当ドクターを引き継いでいくこと。
そして法人内で同じコンセプトを持って患者さんを見続ける体制を整えることが大事と考えています。
しかし最近、他の医院の先輩の先生方より、大事な患者様を引き継がせていただく例も増えてきました。先週の定例の当院でのドクター勉強会では、そのような引き継ぎ症例についてプレゼンをしました。
先輩方は、ご自身の先生の得意分野や、現状を踏まえて、非常に工夫した治療をされており、全体を通して我々にとって非常に勉強となるものと思ったからです。
1.コーヌスクローネを使った症例
コーヌスクローネは(コーヌスデンチャー)は、部分入れ歯(義歯)の一種で、茶筒のふたのように摩擦力を利用して維持する設計の入れ歯です。
天然歯や、インプラント上に内冠を作り、その上にとり外し式のかぶせものをセットすることによって、入れ歯による見た目の悪さを防ぎ、時間と共にに歯が悪くなった時でも、対応がしやすいなど、利点が多いシステムです。
クラスプ付きの入れ歯に抵抗がある方や、ブリッジやインプラントが難しい方にとって有力な選択肢となります。
当院では、このシステムを使用しておりますが、非常に複雑なため、最近診療可能な歯科医師が少ないため、当院に引き継ぎを依頼されました。
コーヌスクローネのメリット
- 審美性が高い
クラスプ(金属のバネ)がないため、自然な見た目。 - しっかり固定される
摩擦力で維持するため、ズレや動きが少なく、噛みやすい。 - 残存歯を保護できる
支台歯の負担が分散され、長持ちしやすい。 - 取り外して清掃できる
口腔衛生を維持しやすい。 - 将来的な修正が可能
支えとなる歯を失っても、修理や拡張が可能。
コーヌスクローネのデメリット
- 支台歯を大きく削る必要がある
しっかりした内冠を作るため、健全な歯質を削ることになる。 - 技術的に難しい
高い精度が必要なため、熟練した技工士と歯科医師の連携が不可欠。 - 費用が高い
保険適用外のため、自費診療となり、費用が高め。
こんな人におすすめ
- 部分入れ歯の見た目が気になる人
- しっかり噛める入れ歯を求める人
- 残存歯を大切にしたい人
- ブリッジやインプラントが難しい人
コーヌスクローネ vs 他の義歯との違い
特徴 | コーヌスクローネ | クラスプ義歯 (通常の部分入れ歯) |
インプラント |
---|---|---|---|
見た目 | ◎ (審美的) |
△ (バネが見える) |
◎ (天然歯に近い) |
安定性 | ◎ (強固な維持) |
△ (外れやすい) |
◎ (固定式) |
歯への負担 | ○ (負担分散) |
△ (支台歯に負担) |
△ (外科手術が必要) |
費用 | △ (高額) |
◎ (保険適用可) |
× (最も高額) |
修理のしやすさ | ○ (調整可能) |
○ (調整可能) |
△ (修理困難) |
2.難しいインプラントの症例
大先輩から引き継いだ症例ですが、上顎に取り外し式の、アタッチメントを使ったブリッジが入っていました。上顎の臼歯部には上顎洞と言う骨の穴が存在するため、十分な太さと長さのインプラントを充分な数埋入することができなかったため、取り外し式になっていました。
そのため噛みにくいと言う訴えがありました。そこでサイナスリフトと言う手技を使って、十分な数のインプラントを埋入して、固定性のブリッジにできるように工夫しました。
サイナスリフトとは?
上顎の奥歯の上には上顎洞(サイナス)と呼ばれる空洞があります。この部分の骨の厚みが十分でないと、インプラントを埋入するための固定が難しくなります。そのため、上顎洞底を持ち上げ(リフトし)、骨を増やすことでインプラントを可能にするのが「サイナスリフト」です。
サイナスリフトの方法
サイナスリフトには大きく分けて2つの方法があります。
- ラテラルアプローチ(側方アプローチ)
上顎洞の側壁(頬側)に小窓を開け、シュナイダー膜(上顎洞粘膜)を慎重に剥離して持ち上げる。
そのスペースに骨補填材(自家骨、人工骨など)を填入し、骨の再生を促します。
骨の厚みが非常に少ない場合に適用されることが多い。 -
クレスタルアプローチ(垂直アプローチ、オステオトームテクニック)
インプラント埋入部位から、専用の器具(オステオトームなど)を用いて骨を垂直方向に押し上げる。
上顎洞粘膜を慎重にリフトし、その下に骨補填材を挿入。
骨の厚みがある程度ある場合に適用される。
サイナスリフトが必要なケース
- 歯を失ったまま長期間放置し、上顎の骨が吸収されている
- 生まれつき上顎洞が大きく、骨の厚みが不足している
- 重度の歯周病で骨吸収が進行している
メリット
- インプラントの適応範囲が広がる(骨が足りなくても治療可能)
- 長期的なインプラント成功率が向上(しっかりした骨支持が得られる)
- 審美性・機能性が向上(骨が足りないとインプラントの位置が制限されるため)
デメリット・リスク
- 術後の腫れ・痛み(特にラテラルアプローチは侵襲が大きい)
- 上顎洞粘膜の穿孔リスク(粘膜が破れると感染のリスクが高まる)
- 治癒に時間がかかる(骨造成が安定するまで約4〜9ヶ月)
- 副鼻腔炎のリスク(術後の感染や炎症に注意)
今回は、骨が極めて少なかったために、ラテラルアプローチにて手術しております。
当院では、このような難しいケースでも、口腔外科医や麻酔医と密接に連携して、可能な限り安全な手術を心がけています。
3.バータッチメント
この患者さんは、上下総入れ歯の患者さんです。引き継ぎ元の歯医者さんでは、固定のため、インプラントを埋め入れた上、バータッチメントと言うアタッチメントを使って固定していました。しかし、入れ歯が噛みにくいため、再作製を希望されました。
バータッチメントは特殊なアタッチメントのため、作り直すには知識が必要です。当院でも、当院で培ってきた経験を利用して、入れ歯を作り直し、よく噛めるようになっていただき、満足していただきました。
インプラント上のバーアタッチメントとは?
バーアタッチメント(Bar Attachment)は、インプラントを利用して総義歯(フルデンチャー)を固定する方法の一つです。
数本のインプラントを埋入し、それらをバー(連結装置)で接続し、そのバーに義歯を装着することで安定性を高めます。
取り外し可能な義歯の固定法として、特に総義歯の安定性を向上させる目的で使用されます。
バーアタッチメントの利点
- 義歯の安定性が高い
通常の総義歯よりも、しっかりと固定され、外れにくい。
会話中や食事中に義歯がズレるリスクが少ない。 - インプラントを支えにすることで、しっかりと噛む力を維持できる。
硬いものでも噛みやすくなるため、食事の幅が広がる。
骨の吸収を抑える。 - 入れ歯は取り外し可能で清掃しやすい
義歯の取り外しが可能なため、口腔内や義歯自体の清掃がしやすい。 - 固定式ブリッジに比べてメンテナンスが容易。
- インプラントの本数が少なくて済む
フルブリッジ(固定式のインプラント義歯)では8〜10本のインプラントが必要だが、バーアタッチメントなら2〜4本程度で済むことが多い。
バーアタッチメントの欠点
- 義歯の取り外しが必要
固定式ブリッジと違い、患者自身で義歯を取り外して清掃する必要がある。
取り外しが面倒だと感じる方もいる。 - バーの清掃が難しい
バーの下に汚れが溜まりやすいため、適切な清掃が必要。
プラークが溜まると、インプラント周囲炎のリスクが高まる。 - インプラントの位置が重要
インプラントの埋入位置が適切でないと、バーの設計が難しくなり、義歯がしっかり安定しないことがある。 - 金属バーの破損リスク
長期間使用すると、バーの金属部分が摩耗したり、破損する可能性がある。
その場合、バーの修理や交換が必要になる。 - コストが高い
通常の総義歯に比べて、インプラントの手術が必要なため治療費が高額になりやすい。
バーの製作や維持にもコストがかかる。
”マイナス1歳から、最後のワンスプーンまで口を通して患者に寄り添う” 当院のミッションを本当の意味で達成することは、これからもチャレンジすべきことがたくさんあると思います。
法人内でいかに引き継いでいくか?、一生のうちの様々なニーズにいかに高度に対応していくか?、他職種との連携をいかに密にするか?、人材育成をいかにするか?
などいろいろな課題をクリアしていく必要があります。今回は、その中の、他医院からの引き継ぎというテーマにフォーカスを当ててお話をいたしました。繰り返しますが、どの先生方もその時代に合わせた最善の治療を工夫されていることがひしひしと伝わってきます。大事なことは、前医の先生方の治療に敬意を持ちつつ、引き継ぐことだと思っています。
今後とも、ミッションを真に達成するため、医院一丸として精進して参りたいと思っています。